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「UNIZONE 2025 Final Round」競技レポート

国内で唯一、JAF(日本自動車連盟)の公認を受けたeモータースポーツ大会「UNIZONE」。本大会を主催する一般社団法人 日本eモータースポーツ機構(以下「JeMO」)は、2025年9月23日(火・祝)に、2025年シリーズ最終戦を開催しました。

熱い声援に包まれた“運命の一戦

UNIZONE第5戦はシリーズ最終戦。今季のチャンピオンが決まる決定戦として、「HOME&HOME形式」の各拠点(名古屋・熊本・東京・浜松・群馬)は、開幕戦とは質の違う緊張感と高揚感に包まれました。観客席ではチームカラーのグッズが揺れ、スタートのたびに歓声とため息が交錯。配信越しにも伝わる一体感は、まるで実際のサーキットにいるかのようでした。

ここまでシリーズを牽引してきた上位陣は、わずかな判断ミスがタイトル行方を左右する極限のプレッシャー下で周回を重ねます。スプリントの短期決戦とメインでの総合力、そしてペナルティを含む裁定までが“ポイントの一滴”へと変わる最終局面。王者の座を懸けた攻防は、スタートからフィニッシュまで一瞬も目を離せない展開となりました。

予選では“下剋上”――小此木(群馬)がポール奪取

決戦の舞台はスパ・フランコルシャン。タイムアタックで主導権を握ったのは、意外や意外、群馬ダイヤモンドペガサスの小此木裕貴選手でした。1’50.540を叩き出し、今季予選の主役だった名古屋OJA勢を0.5秒差で抑えて堂々のポールポジション。最終戦の重圧下で最速を刻み、予選ポイント3を先取りします。 2番手は武藤壮汰選手(名古屋OJA/1’51.049)、3番手に小出峻選手(名古屋OJA/1’51.350)。続いて百瀬翔選手(遠州ハママツモータース/1’51.535)、黒沢和真選手(Saishunkan Sol 熊本/1’51.864)と上位は僅差の大混戦でしたが、流れを変えたのは小此木選手の一撃。名古屋主導の“常識”を覆す下剋上の予選結果となりました。

レース1は“波乱の幕開け”

スタート直後、木村選手(東京)がターン1でオーバーシュートし、瀬田選手(浜松)、小山選手(群馬)、小出選手(名古屋)を巻き込む多重クラッシュが発生しました。上位の隊列は序盤から大きくシャッフルされますが、武藤選手(名古屋)と小此木選手(群馬)はこの混乱に巻き込まれず、クリーンにオープニングを切り抜けます。 最終コーナーでは兒島選手(東京)が百瀬選手(浜松)のインをうかがった際に接触が生じ、両者が大きくロス。その間に黒沢選手(熊本)は前方をクリアにしてペースを引き上げ、危なげなくギャップを拡大する展開になりました。一方、ポールポジションの小此木選手(群馬)はスタートから主導権を譲らず、淡々とラップを刻んで逃げ切り勝ち。予選の勢いを確かな勝利に結びつけ、最終戦の先制点を獲得します。
対照的に武藤選手(名古屋)は序盤のクラッシュこそ回避したものの、ペースの立て直しに苦しみ、有効打を見せられないままチェッカー。ここは“完封負け”で、レース1の勝者を小此木選手(群馬)に渡る形となりました。

レース2はフルリバースの大混戦

レース②はフルリバースグリッド。ポールの小山選手(群馬)はスタートで痛恨のストールを喫し、最後尾へ後退します。代わって瀬田選手(浜松)が1コーナーでトップに立ち、序盤から隊列が大きく入れ替わる展開になりました。
ケメルストレートでは兒島選手(東京)がスリップを生かして瀬田選手(浜松)をオーバーテイク。背後では百瀬選手(浜松)と木村選手(東京)が接触しクラッシュ、さらにそのさらに後方では小出選手(名古屋)が小此木選手(群馬)をかわし、たった1周で順位が激しくシャッフルされます。

2周目、黒沢選手(熊本)は瀬田選手(浜松)を捉えにかかりますが、OTSを使っても並び切れず我慢の周回が続きます。一方、レース1の雪辱に燃える武藤選手(名古屋)は最終コーナーの深いブレーキングで荒川選手(熊本)を攻略し、着実に前進します。
3周目の18コーナーでは小出選手(名古屋)と瀬田選手(浜松)が接触し、ともにクラッシュ。上位争いから脱落してしまいます。先頭の兒島選手(東京)は懸命に粘りますが、5周目に黒沢選手(熊本)が圧のある立ち上がりで前へ。勝負所での決断力が光りました。
6周目、ケメルストレートで小此木選手(群馬)と武藤選手(名古屋)が並び、さらにもう1台を交えて3ワイドに突入。ブレーキング勝負は小此木選手(群馬)が止まり切れずに後退し、武藤選手(名古屋)が巧みに立ち上がりを合わせて2位へ浮上します。
そのままチェッカーは黒沢選手(熊本)が先頭で通過し、待望の初優勝。速さは示しながらも不運や細かなミスで勝利を逃してきただけに、本人はもちろんチームも大歓喜です。チームランキング2位確保へ大きな一歩となる、価値ある初勝利でした。

レース3は富士で超高速決戦

コースと車種が切り替わり、舞台は富士スピードウェイ。予選ポールの小此木選手(群馬)に代わり、GTのプロフェッショナルである浅賀選手(群馬)がステアリングを握りました。
スタート直後は4ワイドになりかねない密集隊列。百瀬選手(浜松)、黒沢選手(熊本)、小出選手(名古屋)がわずかに接触し、黒沢選手(熊本)がクラッシュで序盤から波乱の展開となります。1コーナーでは武藤選手(名古屋)が浅賀選手(群馬)のインをうかがって並び、2台が失速。その一瞬の混乱を突いて百瀬選手(浜松)が鮮やかにオーバーテイクしトップへ。さらにダンロップコーナーでは小出選手(名古屋)が浅賀選手(群馬)のインへギリギリのブレーキングで飛び込み、見事に前へ出ます。立ち上がりでは失速した浅賀選手(群馬)が武藤選手(名古屋)と並走のまま接触しスピン。後方へ沈みました。

2周目、武藤選手(名古屋)は木村選手(東京)をパスしてポジションアップ。直後に小出選手(名古屋)がまさかの単独スピンで順位を落とします。続く区間では木村選手(東京)と荒川選手(熊本)が接触し、木村選手(東京)がスピン。上位は百瀬選手(浜松)がレースをけん引し、後方は入れ替わりの激しい展開が続きます。

そのままフィニッシュは百瀬選手(浜松)が堂々の逃げ切りで今大会2勝目。武藤選手(名古屋)が2位に入り、タイトル争いで重要なポイントを積み上げます。3位には安定感を見せた佐々木選手(群馬)が入り、富士らしいスピードと駆け引きが凝縮された一戦となりました。

レース4は“人気投票”が命運を分けた一戦

人気投票の結果でグリッドが決まり、ポールは小出選手(名古屋)、2番手に小山選手(群馬)、3番手に木村選手(東京)という、実車レースで実績のある顔ぶれが並ぶ注目の並びとなりました。
スタートでは小出選手(名古屋)が決めてホールショット。木村選手(東京)は2番手へ浮上し、小山選手(群馬)は出遅れてポジションを落とします。小山選手(群馬)は立て直しを図る途中、ダンロップで黒沢選手(熊本)と接触し、両者とも後方へ後退しました。
レース中盤、3周目のホームストレートで武藤選手(名古屋)が浅賀選手(群馬)をオーバーテイクし、9位スタートから早くも4位へ。さらに4周目には瀬田選手(浜松)を粘り強いブレーキングで攻略して3番手に上がります。一方の瀬田選手(浜松)は、その後ろから迫る浅賀選手(群馬)の猛追を振り切り、4位でフィニッシュしました。
熊本勢はこのレースで8位、10位と苦戦。チームランキング2位争いでは、遠州ハママツモータースが逆転に望みをつなぐ形となります。
先頭は終始ミスなくコントロールした小出選手(名古屋)。ファン投票で得たポールの期待に見事に応え、堂々の優勝を飾りました。

レース5は“初年度の集大成”――ナイトのフルリバース

スターティンググリッドはフルリバース。ナイトレースとの組み合わせで、波乱必至の最終スプリントとなりました。
ポールは小山選手(群馬)、2番手に瀬田選手(浜松)、3番手に佐々木選手(東京)。小山選手(群馬)は好発進でホールショットを守ります。瀬田選手(浜松)は背後から迫る佐々木選手(東京)をブロックしつつ前を追いますが、佐々木選手(東京)のペースが上回り前方2台を追撃します。
アドバンコーナーで小山選手(群馬)がブレーキをわずかにオーバーラン。瀬田選手(浜松)もつられる形でラインが乱れ、空いたスペースへ佐々木選手(東京)と木村選手(東京)がスルリと進入。ここで東京ヴェルディの1位・2位体制が成立します。
後方ではGRスープラコーナーで小出選手(名古屋)が荒川選手(熊本)に仕掛ける最中に接触。大クラッシュには至らなかったものの、数台が大きく遅れる事態となりました。
東京ヴェルディに先行された瀬田選手(浜松)は前を追いたい一方で、背後の小山選手(群馬)からの圧力にさらされ前進の糸口をつかめません。
4周目に入ると、瀬田選手(浜松)が木村選手(東京)を攻め立てますが、木村選手(東京)はチームプレーで巧みにブロックし、先頭の佐々木選手(東京)を逃がす展開に。ここで9位スタートの武藤選手(名古屋)が4位まで浮上し、木村選手(東京)に照準を合わせます。しかしAMGのストレートスピードが効き、決め手に欠ける周回が続きます。
勝負どころは5周目のダンロップ。武藤選手(名古屋)が木村選手(東京)へ仕掛け、サイド・バイ・サイドのままGRスープラコーナーへ。立ち上がりでトラクションが抜けた木村選手(東京)が痛恨のスピン。直後を見ていた瀬田選手(浜松)は最終コーナーを小回りで立ち上がり一度は前へ出ますが、加速の差で武藤選手(名古屋)がすぐさま差し返し、順位を取り戻します。
以後は大きなオーダーチェンジなくチェッカー。
佐々木選手(東京)が嬉しいUNIZONE初勝利を飾り、武藤選手(名古屋)が2位で続き、瀬田選手(浜松)が3位争いを制して上位を締めくくりました。
最終スプリントは、開幕戦から縮まり続けた実力差を象徴する一戦になりました。スタート、ブレーキング、チームワーク、そして一瞬の判断が勝敗を分け、UNIZONE初年度の大団円にふさわしい熱戦となりました。

最終戦は“全チームが勝つ”乱戦に――初年度の締めくくり

最終ラウンドは、初年度の総決算にふさわしい激戦になりました。レース1の小此木選手(群馬)、レース2の黒沢選手(熊本)、レース3の百瀬選手(浜松)、レース4の小出選手(名古屋)、そしてレース5の佐々木選手(東京)と、すべての拠点が勝利を分け合う展開でした。勢力図が固定化されず、実力と流れ、戦略と瞬発力が複雑に絡み合った結果だと思います。
タイトル争いは最後までスリリングでしたが、チームチャンピオンは名古屋、ドライバーチャンピオンは武藤選手(名古屋)に軍配が上がりました。シーズンを通じての予選の安定感とレース運び、小出選手との抜群のコンビネーションが生み出すポイント獲得力が決め手になりました。チームランキング2位には黒沢選手(熊本)を軸に粘り強く積み上げた熊本が入り、3位には下馬評を覆す快進撃を見せた浜松が食い込みました。百瀬選手(浜松)の台頭は、シリーズ後半の象徴と言える出来事だったと思います。

最終戦の各レースには、UNIZONEらしい仕掛けが色濃く表れました。フルリバースやファン投票グリッドは、下位からでも勝機を生み、OTSの使いどころや隊列コントロールの巧拙が勝敗を左右しました。ペナルティや接触が流れを変える場面もありましたが、どのチームも短時間で修正し、次のスティントに繋げる対応力を見せました。最終スプリントでの東京の連携、熊本の粘り、名古屋の底力、群馬の一撃、浜松の勢いが、ひとつの画面の中でせめぎ合った素晴らしいラウンドになりました。
初年度のUNIZONEには来年度に向けた課題も勿論ありましたが、最終戦後にはSFとGT3の混走エキシビションを実施し、混在カテゴリーでどのようなレース展開をファンに届けられるかを検証。来季に向け新たなフォーマットの可能性を見出していました。

戦力図も読み応えがあります。各チームが“打倒名古屋・打倒武藤壮汰”を掲げ、ドライバーラインアップや車種選択、拠点間の連携強化、データ解析の高度化で対抗してくるはずです。第3戦から一気に存在感を高めた百瀬選手(浜松)や、最終戦で予選主役となった小此木選手(群馬)のような新星が、来季はフルシーズンでどこまで伸びるのかに注目しています。小出選手(名古屋)・木村選手(東京)・小山選手(群馬)といったリアルレースの強者が、さらにシリーズの強度を引き上げる可能性も十分です。
UNIZONEの魅力は、固定化しない序列と、毎戦アップデートされるレギュレーション活用にあります。最終戦で全拠点が勝利した事実は、裾野の広がりと戦力均衡の進行を雄弁に物語っています。来シーズンは、誰が先頭でチェッカーを受けても不思議ではない“実力伯仲の群像劇”が、さらに高いレベルで展開されるはずです。新たな挑戦者の登場、戦略の深化、そして各地の熱量が交差する舞台に、引き続きご期待ください。